マリネッラ ナポリ 丸の内店長 小林 のナポリ解体新書⑧
~口ひげの紳士~
TYPE : Flow
DATE : May 30, 2022
マリネッラ ナポリのコラムです。
マリネッラはもちろん、イタリアやナポリにまつわる四方山話を徒然なるままに、マリネッラ ナポリ 丸の内 店長 小林がお伝えします。
マリネッラをご存じな方も、まだご存じではない方も、ネクタイ以外にも知っていただきたい「ナポリの魅力」を是非コラムでお楽しみください。
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マリネッラ ナポリ 丸の内 店長 小林正弘
「いつも、フローエンスをご覧下さりありがごとうございます。 マリネッラ ナポリ 丸の内におります、小林と申します。 ナポリについては、下手の横好きですが、また以前のようにナポリに行けるようになる“その時に”役に立つ情報などなど、 織り交ぜられたら良いなぁなどと思っております。 駄文ですが宜しくお願い致します。」

ここは、ナポリの中でも最も庶民的な地区であるスペイン人地区の一角。
この集合住宅の住人の方も、ほとんどの世帯の方がビアレッティ社のマキネッタを使っているという計算が弾き出されていると思うと驚愕です!
こんにちは、マリネッラ ナポリ 丸の内 の小林です。
いつも、マリネッラのブログ、FLOENS TOKYOをご覧下さり、誠にありがとうございます。
心より、御礼申し上げます。
さて、みなさま、如何お過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
以前のブログ ▶“異端の飲み物”で書かせて頂きました、ナポリのエスプレッソ文化。
これは、イタリア広しと言えども、ナポリにおいては一際そのこだわりは強く、市内に無数に存在するバール(コーヒー店)のレベルは間違いなくイタリア随一で、どこのバールで飲んでも、ほぼ間違いなく美味しいエスプレッソが飲めるというバール天国でもあります。

しかし、ナポリには、写真ような路地裏の小さなバールでさえ最高に美味しいエスプレッソを提供する、昔ながらのバールがいくつも存在します。
この対比も正にナポリ。古来よりたくさんの人を魅了し続けるナポリ、かのモーツアルトでさえナポリ滞在中は1曲も作曲をしなかったという逸話が残ります。
では、そんなナポリ人ですが、ご自宅ではどのようにエスプレッソを楽しんでいらっしゃるか・・・。
そうなのです、最近でこそ、ネスプレッソを始めとする、家庭用の圧力式エスプレッソマシンの普及により、お使いの方も増えてきてはいるようですが、やはり、まだ多くの方がマキネッタと呼ばれる、直火式コーヒー抽出機にこだわりを持ってエスプレッソを淹れています。
まるで、日本におけるの“急須”と同じような立ち位置ではないかともいうべき、このマキネッタこそ、イタリア人の日常に密接に関わっており、そして、とても奥の深いものに思いますので、今回はその話を少々したいと思います。
そこで、まず、“マキネッタ”と言われても「?」の方が多いと思います。
これです。
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▶直火式エスプレッソメーカー :: モカエキスプレス (bialetti.jp)
マキネッタとは、直火式のコーヒー抽出機のことなのですが、このマキネッタは、イタリアだけに限らず、実は、世界中に製造をするメーカーがあるようです。
しかし、やはり何といっても、マキネッタ界のフェラーリ、“ビアレッティ社”のものが群を抜いてのダントツのトップに思います。
このビアレッティ社のマキネッタのすごいところは、イタリア国内では、ほとんどの要所の部品はパーツ売りされており、古くなったり、焼けてしまった等の場合は、取っ手だけ交換、つまみだけ交換、ハンドルを交換といったよう簡単に自分で修理が出来てしまいます。
つまり、長年手塩にかけて使い込んだ本体ボディ部分の躯体はそのままで、レストアが出来てしまうということなのです。
なので、現地のイタリア人は、長年使い込んだマキネッタを大切に長く愛用する方がほとんど。
そして、このビアレッティ社のマキネッタのイタリアの家庭における普及率は、なんと90%という驚愕のデータが存在するとか・・・、凄すぎます。
というわけで、私どもマリネッラの本店があるナポリにおいても、このマキネッタを使ってエスプレッソを飲む方が多いです。
もちろん、マリネッラ本店の現地スタッフのナポリ人もほとんどがマキネッタで淹れたエスプレッソを飲んでいます。
そして、日本やアメリカと異なり、いわゆるドリップコーヒーはほとんど飲まれません。

やはり、ビアレッティ社のものを愛用しており、14年以上使用しているそうです。
ボディ部分のキズやくもり、タンク部分の焼けなど、数々の苦楽を共に過ごしてきたであろう歴史を感じさせるエイジングが良い雰囲気です。そして、その奥にはパッサラックアの”HAREM”缶。
このHAREMはパッサラックアの中でも上位豆カテゴリーに属するコーヒー粉で、何でも、「ブルーマウンテン品種の血統をもったジャマイカ産の豆を含むアラビカ種100%でブレンドされた配合」となるそうです。
芳醇という香りがぴったりとハマる風味が上品な飲み口です。
日本では手に入り難いと思いますので。ナポリに行かれた際は是非お買い求め下さい。
実は、このマキネッタで淹れたエスプレッソは“モカ”と呼ばれ(コーヒー豆の種類のモカとは別物です)、厳密には、機械式の高圧蒸気によって淹れたエスプレッソとは別物とされます。
イタリアの家庭では、「この使い込んだ、おれのマキネッタで淹れたエスプレッソじゃなきゃ始まらん!」
という方も多いほど、マキネッタを使用する方が多く、その方達に圧倒的に支持されるのがこのビアレッティ社のマキネッタという構図になります。
このマキネッタの構造は至ってシンプルで、ねじ込み式のタンク部分に水を入れ、山盛りのエスプレッソ用のコーヒー粉をフィルター部にセットし、直火にかけるだけという大変シンプルな構造です。
日本においても、昨今のキャンプブームの影響もあり、キャンプの際にアウトドアで使用する方が増えてきているとか。「外でたき火を見ながら飲むのは格別なのだろうな・・・」などと思う今日この頃です。
そもそも、このビアレッティ社ですが、創設者のアルフォンソ・ビアレッティにより、イタリアのピエモンテ州オメーニャにて1919年に創業します。そして、2019年には創業100周年を迎えました。
何でも、マキネッタは、ルイジ・デ・ポンティという方が、古い洗濯機から着想を得て発明をしたそうです。その後、商品化をしたのが創設者アルフォンソであるという、少々ややこしい経緯があります。そして、アルフォンソの息子であるレナートの卓越したマーケティング手腕により、第二次世界大戦後に爆発的に売上を伸ばしたと言われます。(諸説あります)
因みに、このビアレッティのロゴマークにもなっている“口ひげの紳士 ~Omino con i baffi~”こそレナート自身であり、“口ひげのおやじ”、“ミスター・ビアレッティ”などの愛称で親しまれるマスコット的存在になっています。
この“口ひげの紳士”のロゴマークですが、前述のレナートが人差し指を天高くつき上げ、「エスプレッソをもう一杯!」と言っている様子を表しているそうです。
そして、レナートによる天才的なマーケティング手腕により爆発的に売上を伸ばしたビアレッティ社のマキネッタですが、その美しいフォルムが世界中で評価され、何と、ニューヨークMOMA美術館のアーキテクトデザイン部門の永久登録がされているという代物です。
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▶Alfonso Bialetti | MoMA
その後、レナートは、2016年2月に93歳で逝去するのですが、その葬儀の様子も話題となりました。
ご存知の方も多いかもしれませんが、何と、レナートの遺骨は特注のマキネッタの骨壺に納められ安置をされたことがイタリア全土で話題となりました。
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▶Renato Bialetti, i funerali: le ceneri dentro la sua celebre moka “con i baffi” – Corriere.it
少々長くなってしまいましたが、このビアレッティ社のマキネッタは、その歴史もさることながら、とにかく使い勝手が最高に良く、質実剛健。
私も、一番古いビアレッティのマキネッタは20年以上経過しておりますが、現役で使用しています。
部品がパーツ売りで購入できる点も素晴らしいのですが、パーツ部分の強度、また、コーヒー抽出中の噴きこぼれといった粗相が格段に少ない、正に質実剛健のクオリティに思います。
かく言う私も、様々なメーカーのマキネッタを使用致しましたが、もはやマキネッタは、ほぼビアレッティしか使用しておりません。
なので、自信を持ってのおすすめです。
ビアレッティ社ですが、1998年にロンバルディア州ブレシアの企業に買収され現在に至るようなのですが、アルフォンソとレナートの遺志はしっかりと受け継がれ、その使い勝手の良さとクオリティを維持したまま、今日も、イタリアだけではなく世界中の人々に愛される名品の一つとなっています。
みなさまも、マキネッタ生活を如何でしょうか。
4,000円程の初期投資で、エスプレッソはもちろん、カフェラテ、カプチーノ、アッフォガートとご自宅で簡単にお楽しみ頂け、家中がエスプレッソの香りで包まれる、驚くほど豊かなコーヒー生活をお楽しみ頂けます。
それでは、また次回に。お付き合い頂き、ありがとうございました。
丸の内にお越しの際は、是非、店頭にも遊びにいらして下さい!
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マリネッラ ナポリ 丸の内
東京都千代田区丸の内2-6-1 丸の内ブリックスクエア1F
営業時間:11:00~20:00
TEL : 03-3217-2871
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