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20231020

僕がナポリのマリネッラを愛してやまない理由 Vol.3/4

Oct 20, 2023

Afterhoursにて連載の 藤田雄宏氏によるマリネッラ特集記事を4週連続でお届けいたします。

ナポリへの愛に満ちたマリネッラの心の中は常にナポリがある。

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マリネッラの連載・第3回は、マウリッツィオ・マリネッラ氏の粋な計らいで、作家・ジャーナリストのミケランジェロ・イオッサ氏にナポリの町を案内してもらうことに。イオッサ氏は僕が最も愛するカンタウトーレ(作詞・作曲家・歌手)のピーノ・ダニーエレの本『Napule è… i luoghi di Pino Daniele』を上梓した人物であった。こちらは彼と待ち合わせたアッヴォカータというエリア。今や人気観光地となったスペイン地区の坂をのぼりきったところだ。



原稿・撮影 藤田雄宏



マウリッツィオ・マリネッラ氏の粋な計らいで、氏の友人をガイド役にしてナポリの半日ツアーに連れていってもらえることになった。

マウリッツィオ氏は僕がかつて短期間だけれどナポリに住み、ひととおりのナポリ観光は済ませていることを知っているので、どこへ連れていってくれるのか、期待で胸が高鳴った。

マリネッラ親子がインタビューで話してくれたことと、これから向かうナポリツアーの中身はきっと深いところで繋がっていて、そこにマリネッラとして伝えたいことが隠されているのかな? ナポリの“アニマ(魂)”を感じてくれってことなのかな? と想像する。

マウリッツィオ氏は運転手を用意してくれ、クルマでガイドとの待ち合わせ場所へ向かった。サルヴァトール・ローザという大通りまで出て、国立考古学博物館に程近いアッヴォカータと呼ばれるエリアまでやってきた。

ガイドしてくれるのはどんな人物なんだろう、ナポリ弁がきつくて話がわからなかったらどうしよう、あれこれ期待と不安が入り混じった僕を待っていてくれたのは、物腰が大変柔らかく、とても感じのよい話し方をする、大変魅力的な人物であった。

彼の名はMichelangelo Iossa(ミケランジェロ・イオッサ)。職業は作家・ジャーナリストで、多数の著書があり、イタリアで現存する最古の日刊紙『Corriere della Sera(コッリエーレ・デッラ・セーラ)』の記者であるという。聞き覚えのある名のような気もしたが、挨拶はそこそこに済ませ、イオッサ氏がぜひ案内したいというVia Francesco Saverio Correraという坂道の通りを一緒に徒歩で下っていった。

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ナポリの町を案内してくれた、作家・ジャーナリストのミケランジェロ・イオッサ氏。ニットタイはもちろんマリネッラだ。初めてのマリネッラは18歳のとき、銀行員でマリネッラのネクタイが大好きだった父に買ってもらったものだという。そのクラシックなネイビーの小紋タイは今でももっていて、父から譲り受けたネクタイとともに愛用し続けているとのこと。



サッカー セリエAで33年ぶりのスクデットを獲ったナポリの街を象徴するように、同通りはそれを祝福するフラッグやデコレーションで覆い尽くされている。ナポリの下町情緒に溢れ、洗濯物がはためき、ナポリ市民の日常生活が垣間見られる、そんなエリアだ。実際、ナポリの旧市街はどこもそんな感じなのだが、それでもこの通りはやはりユニークさが際立っている。ナポリに観光で訪れた際は、昼の安全な時間帯に歩いてみるといいだろう。



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こちらがFrancesco Saverio Correra通り。ナポリの人々の地元愛、いかに“アッズーリ”を愛しているかがわかる。

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ナポリの下町の生活がリアルに感じられる通りだ。ナポリには、イタリア人でさえも新鮮に感じる、強烈なオリジナリティがある。

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エスプレッソが好きなら、Via Francesco Saverio Correra通りからトレド通りに抜けて左に行ったピアッツァ・ダンテ(ダンテ広場)のバール・メッシコ(ここはPassalacquaパッサラックアが経営)で、最高においしいカッフェを飲むのがオススメだ。個人的にはナポリのカッフェは世界一おいしいと信じていて、日本ではなかなか味わえない濃厚で素晴らしいアロマに感動すること必至だ。どこで飲んでもおいしいけれど、特にバール・メッシコのカッフェは素晴らしい。



ダンテ広場に出たら、すぐ近くのAccademia di Belle Arti di Napoli(ナポリ美術アカデミー)を特別に見学させてもらった。ここは1752年にナポリ・シチリア王のカルロ7世によって設立され、かつては王立美術研究所、王立美術アカデミーと呼ばれていた時代もあった、高等芸術教育を行う大学機関である。

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校舎を見学させてもらったが、ミケランジェロのダヴィデ像をはじめ、生徒が学ぶ館内のあちこちに素晴らしい芸術作品が並び、美しい中庭は生徒の憩いの場となっている。


スペイン地区の有名な観光エリア、ムラーレスへと向かった。ムラーレス(壁画)はナポリ人にとっての永遠の英雄、ディエゴ・マラドーナの巨大な壁画が描かれた人気のスポットで、治安が悪いと言われていた10年前が嘘のように、今ではナポリ人やイタリア人はもちろんのこと、世界中からの観光客で賑わっている。ナポリらしい下町情緒に満ちていてるこちらもまた、ナポリを訪れた際はぜひ訪ねてみてほしい。

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歩くだけで汗ばむ陽気な1日だったので、ナポリ名物Limonata a cosce aperte(リモナータ ア コッシェ アペルテ)(太ももを開いて飲むレモンスカッシュ)でひと休憩。フレッシュなレモンを絞ってから炭酸水で割り、飲む直前に重曹を入れて提供されるのだが、すぐに泡が噴き出すので、膝を開いて一気に飲まないと服が濡れてしまうからその名がついた。夏にはナポリの町のあちこちに屋台が現れ、夏のナポリの風物詩となっている。

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ムラーレスを訪れたあとはSSCナポリの本拠地となっているスタジアム「スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナ」へと向かった。旧スタディオ・サン・パオロは、マラドーナの死後、彼の名を冠した名称となり、アッズーリの絶大なレジェンドがナポリ人の心の中で永遠に生き続けることになったのだ。ちなみに同スタジアムでナポリが得点をあげると、観客の熱狂で近隣のアパートは地震が起こったときのように地鳴りがし、地震計の針が大きく振れるという(信じられないが、ホントの話らしい)。

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スタジアムそばのバールで休憩。ナポリでは事あるごとに「カッフェでも飲むか」となり、結果1日に5杯も6杯も飲むことになる。ナポリのカッフェは世界一!



ランチの時間になり、クルマを飛ばしてコルソ・ヴィットリオ・エマヌエーレにある5つ星ホテル、Grand Hotel Parker’s(グランド・ホテル・パーカーズ)へと向かった。ここは僕がナポリ時代に住んでいたCasa Rubinacciからまっすぐ10分ほど歩いたところにあり、高台のテラスからの眺望はナポリ屈指である。セリエAのユヴェントスの定宿であることでも知られ、僕も何度か宿泊したことがあるけれど、ここのテラスでナポリ湾を見渡しながら食べる朝食は最高のひとこと。パーカーズはいつ訪れてもエレガントな気分になれる場所である。

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6階のレストラン「Muse」とテラス。食事もおいしく、とても優雅な気分に浸れる。同じフロアにミシュラン1つ星の「George Restaurant」もある。



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屋上のルーフトップバーからの眺望。ヴェズーヴィオとナポリ湾を一望できる。

ここでアペリティーヴォを楽しみながら、イオッサ氏の仕事について尋ねてみた。作家・ジャーナリストである彼は、ナポリの歴史、文化、音楽、『007』を得意分野としており、特にビートルズに関しては10冊以上の書籍を上梓しているという。

イタリアの音楽に関する本は出していないのか問うと、ピーノ・ダニエーレやリーノ・ガエターノの本について書いているというではないか。ともに大好きなカンタウトーレなのでその内容を問うと、ピーノ・ダニエーレの本に関しては、彼と深く関わりのあったナポリのスポットを歴史とともに紹介したものだという。

それを聞いた瞬間、ピンときた!

「その本とは『Napule è……I Luoghi di Pino Daniele』のことですか?」と、確信しながら尋ねてみた。

なぜならその本はアフターアワーズをスタートさせたときからずっと事務所に飾っていて、ナポリが恋しくなるとついつい手に取って、辞書を片手に1テーマずつ読み込んでいるほど愛している1冊だからだ。

僕の言葉に、イオッサ氏は「何で知っているんだ!」と驚きと喜びが入り混じった表情を見せた。

同時にミケランジェロ・イオッサという聞き覚えのある名が、僕の記憶から甦ってきた。

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ピーノ・ダニエーレは前にも書いたけれど、ディエゴ・マラドーナと並んで、亡くなってなおナポリ人の心の中で今も生き続けているナポリ人が誇るカンタウトーレ(自身で作詞・作曲する歌手)だ。ナポリ人に好きなミュージシャンを問うと、必ずといっていいほどピーノ・ダニエーレの名があがる。マウリッツィオ・マリネッラ氏とアレッサンドロ・マリネッラ氏の親子も、マリアーノ・ルビナッチ氏とルカ・ルビナッチ氏の 親子もそうだった。世代を超えて、ナポリの全市民に愛されているカンタウトーレなのだ。ちなみにVia Santa Maria La Nova, 32は、ピーノ・ダニエーレの生家の住所である。



パーカーズでは、ゼネラル・マネージャーのAndrea Prevotsi(アンドレア・プレヴォスティ)氏が出迎えてくれた。彼のこの日のネクタイもマリネッラだった。



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アンドレア・プレヴォスティ氏。マウリッツィオ・マリネッラ氏とは1994年に出会ったという。「40歳の誕生日に、妻からマリネッラのネクタイをプレゼントされましたし、2001年に娘が生まれた際には、マウリッツィオ・マリネッラからピンクの無地のネクタイをプレゼントされました。イタリアでは男の子が生まれたらブルーのリボンを、女の子が生まれたらピンクのリボンを飾る習慣があり、トリノのホテルに住んでいた自分はリボンを飾ることができないので、ネクタイをプレゼントしてくれたんじゃないかな。マウリッツィオ・マリネッラ氏の愛が詰まっているマリネッラのネクタイは、私にとって幸せの象徴でもあるのです。それらのネクタイは記念日ごとに今も締めています」

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余談だが、こちらはジェームズ・ボンド公認のカクテル・ブック。イアン・フレミングの原作に登場するクラシックなカクテル10種に加え、人物、場所、プロットにインスパイアされた、ロンドンの受賞歴のあるバー、スウィフトのミクソロジストが考案した、まったく新しいカクテル40種が掲載されている。パーカーズのバーでは、ここに掲載れているすべてのカクテルを飲むことができるという。



ホテルでのランチを終えてマウリッツィオ・マリネッラ氏が用意してくれたナポリの半日ツアーは終了した。

マウリッツィオ氏は前回の記事で、「ナポリには、歴史、文化、音楽、芸術作品、そして素晴らしい食があり、そしてマリネッラがあります(笑)。それらはすべて今なお独自性に満ちていて、ナポリの人々は精神においてもアイデンティティに満ちています」といった趣旨のことを話していたが、今回のツアーはそれらすべてを体現しているものだった。

ナポリ人は独自性と魅力に満ちたナポリを心の底から愛し、ホスピタリティを大切にし、それを象徴するのがマリネッラである。マウリッツィオ・マリネッラ氏はナポリ中の皆から愛され、マリネッラというブランドは、ナポリの、そしてイタリアの皆にとって幸せの象徴なのだ。


こんな粋なプレゼントをしてくれたマリネッラのことが、僕はますます好きになってしまった。ナポリ人の皆がそうであるように。

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最後にアフターアワーズにとっての朗報。イオッサ氏は現在するイタリアの新聞で最古の歴史を誇る『Corriere della Sera』にも寄稿しているジャーナリストで、本マリネッラ連載の第1話をそのナポリ版『Corriere del Mezzogiorno』にて大きく紹介してくれた。Grazie di cuore!



第4回は2023年10月27日に掲載します。

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“就業時間後”、“ジャズにおけるライブ後の自由セッション”を意味するアフターアワーズ。
ここでは、雑誌編集に20年以上携わっているファッションエディターが自由時間に集まって、ファッションを軸とした記事を自由セッションのごとく発信していきます。
ショップのコーナーには、国内外の友人たちと共業したここでしか手に入らないアイテム、世界から買い付けたストーリー性豊かなこだわりのアイテムが並びます。
ひとつのスタイル、テーマに固執することなく、編集者目線でいいと思った“真の上質”を、自分たちの視点を大切にしながら流行を気にせずに発信していきます。
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