矢部克已 / COLUMN

マリネッラ創業100年、そして次の100年
ーー20世紀イタリアの文化と社会とともにーー
第六回「1950~59年:“ブーム”とも形容された“奇跡のイタリア経済”」

TYPE : En

DATE : Jun 10, 2023

2024年6月に創業110年を迎えるマリネッラ。
メンズファッションエディター矢部克已氏による年代別のコラムを、記念すべき周年に向けてお届けいたします。

20世紀にスポットを当てた年代別のコラムは、イタリアの文化・風俗・ファッション・映画・芸術などの歴史を通し、トピック的な政治経済史を挿みながら、この100年の「マリネッラ」の存在を位置づけるものです。
「マリネッラ」の代表的な商品となる、ネクタイの伝統的な魅力や、巧みなものづくりを掘り下げるために準備した、イタリアとナポリの歴史哲学的な視座を踏まえています。

第二次世界大戦後、急成長を遂げた経済。特に1950年代後半から、“奇跡のイタリア経済”と称されるほど復興した。ミラノはプロダクトデザインの中心地となり、自動車、家電が売れに売れた。ピッティ・ウォモに繋がるファッションショーや、大規模な展示会サミアもはじまる。
1951年、建築家ジオ・ポンティが超軽量の椅子『スーパーレッジェーラ』を発表。モダンなレストランはこの椅子を、ことごとく配置した。同年、アメリカの有力バイヤーを招き、ピッティ・ウォモの前身となるファッションショーがフィレンツェの個人宅で開催。企画した人物は、フィレンツェ名門貴族の出身、ジョヴァンニ・バッティスタ・ジョルジーニである。
1952年には、ピッティ宮殿のサーラ・ビアンカで、さらに大きなファッションショーが行われた。このショーで、唯一参加したメンズブランドが“ブリオーニ”だった。レディース、メンズともに、イタリアファッション発展の足場を固める。同年に、画家フランチェスコ・クレメンテがナポリで生まれ、映画監督で俳優のロベルト・ベニーニは、トスカーナ州アレッツォで生誕した。
1953年、俳優マッシモ・トロイージ誕生。カプリ島を舞台にした『イル・ポスティーノ』が遺作となった。同じ年に、映画監督ナンニ・モレッティも誕生。日記仕立ての構成で映画の新時代を切り開く。1953年は、ブルネロ・クチネリも生まれた。ファッションブランド“ブルネロ クチネリ”を興し、カラーカシミアでブレイク。「人間主義的経営」で、21世紀のファッション産業に変革を及ぼす。
1954年、イタリア放送協会(RAI)がテレビ放送開始。同年、ミラノの高級デパート“リナシェンテ”が主体となり、優れたデザイナーの発掘やデザイン活動に寄与する「コンパッソ・ドーロ」賞を設立。第1回の受賞者は、デザイナーであり、教育者でもあるブルーノ・ムナーリだった。フェデリコ・フェリーニ監督の『道』が公開されたのも1954年。同年、リヴェッティ兄弟が、トリノにアパレル生産工場の「GFT」を立ち上げる。ミラノモーダの一大生産拠点の萌芽。
1955年、“マリネッラ”3代目の、マウリッツィオ・マリネッラ生まれる。同年、リグーリア州のサンレモでサミア開催。メンズファッションを発信する展示会の原形となる。
1956年、映画監督ジュゼッペ・トルナトーレ生まれる。作品『ニュー・シネマ・パラダイス』は、多くのイタリア人の琴線に触れた。同年、ミラノで、タイヤメーカー“ピレッリ”の高層ビル(通称ピレッローネ)建設開始。4年後に竣工。
1957年、服地商の“イザイア”は、カザルヌオーヴォに拠点を移し、3兄弟でブランドの基盤をつくる。ジャーナリスト、インドロ・モンタネッリの著書『ローマの歴史』がベストセラーになったのも1957年だった。
1958年、作家ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサが『山猫』を上梓。イタリア統一戦争(リソルジメント)を背景に、シチリア名門貴族の退廃を描く。
1959年、詩人サルヴァトーレ・クワジーモドが文学賞を、物理学者エミリオ・セグレが物理学賞に輝き、再びイタリア人がノーベル賞同時受賞を果たした。
当然、ナポリにも活気が戻ってきた。マリネッラは、紳士の服装をサポートするために、冠婚葬祭のニーズにあわせた上質な装身具(シャツ、タイ、パピオン、靴)の提案を拡大、以前にも増して評判を得る。イギリスから仕入れた革靴のラインナップも奏功し、50年代後半には“アランマカフィー”の靴も販売した。そして、50年代から60年代を境に、商品のトレンドが変化する。定評あるドレスシャツづくりの販売より、ネクタイのビジネスが上向きはじめた。



Photos by Mimmo and Francesco Jodice for E.Marinella - “Napoli e Napoli” book

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  • 矢部克已/Katsumi Yabe

    1964年東京生まれ。ファッションエディター、ファッションジャーナリスト。 流行通信社(『流行通信HOMME』編集部)、婦人画報社(『メンズクラブ』編集部)を経て、イタリアに渡る。フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノの4都市に移り住む。帰国後、ウェブマガジン『DUCA』『Espresso per te』(ソフトバンククリエイティブ)編集長歴任。星美学園短期大学で非常勤講師。雑誌『メンズプレシャス』のエグゼクティブ・ファッションエディターを務めた。ウェブサイト、トークショーでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般にわたる歴史やスタイル、トレンドに精通し、SNSを積極的に発信する。
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