矢部克已 / COLUMN

マリネッラ創業100年、そして次の100年
ーー20世紀イタリアの文化と社会とともにーー
第十一回「2000~09年:経済危機に直面した国内にあって、拡大する“マリネッラ”」

TYPE : En

DATE : Feb 08, 2024

2024年6月に創業110年を迎えるマリネッラ。
メンズファッションエディター矢部克已氏による年代別のコラムを、記念すべき周年に向けてお届けいたします。

20世紀にスポットを当てた年代別のコラムは、イタリアの文化・風俗・ファッション・映画・芸術などの歴史を通し、トピック的な政治経済史を挿みながら、この100年の「マリネッラ」の存在を位置づけるものです。
「マリネッラ」の代表的な商品となる、ネクタイの伝統的な魅力や、巧みなものづくりを掘り下げるために準備した、イタリアとナポリの歴史哲学的な視座を踏まえています。

21世紀にはいった最初の10年。経済危機対策で、規制緩和が促進される。ワールドカップ・ドイツ大会でイタリアが優勝したのは、起死回生のトピックだった。ファッション・シーンは堅調。「クラシコイタリア」ブームが軌道に乗ったのは、この2000年代だ。
一方で、カジュアルな服の提案が目立ちはじめた。ガーメントダイ&ガーメントウォッシュの加工されたジャケットの登場は、クラシックなスタイルに転機を向かえる予兆となった。
2000年、イタリア国鉄(Ferrovie dello Stato Italiane)の旅客部門が分離。民営化された鉄道会社トレニタリアが設立。高速鉄道網の整備に力を入れ、「フレッチャ・ロッサ」が運行。後年、競合の民間鉄道会社「イタロ」が参入し、互いにサービスが向上する。
2001年、シルヴィオ・ベルルスコーニが政権に返り咲く。およそ10年間(約2年中断)は、「ベルルスコーニ時代」と呼ばれる。ナンニ・モレッティ監督の『息子の部屋』が、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したのも2001年。同年は、ジェノヴァG8が開催された。
2002年、ミラノの閑静な街並みの、サンタ・マリア・アッラ・ポルタ通りに“マリネッラ”はじめての支店がオープンした。
イタリア随一のジェンティールウォモこと、フィアット元会長のジャンニ・アニエッリが逝去したのは、2003年。享年81。イタリア公共放送RAIをはじめ、大手新聞などがトップニュースで報じる。
2004年、“マリネッラ”創業90周年に合わせ、写真集『Cinquantadue nodi d’amore』を出版。同店のネクタイを愛用する、政財界、サッカー関係者など重要人物52人が登場。まさに記念碑的な一冊。すべてモノクロームでの編集だ。
2006年、トリノ冬季オリンピック開催。80か国が参加した。イタリアのメダル獲得は、金5、銅6の計11個。FIFAワールドカップ・ドイツ大会でイタリアが優勝したのも2006年。通算4回目のワールドチャンピオンに輝く。2006年は、クラシコイタリア協会設立20周年でもあった。フィレンツェのヴィサルノ競馬場で盛大な記念パーティを開く。協会会長は、クラウディオ・マレンツィにバトンタッチ。作家ロベルト・サヴィアーニの著書『ゴモラ』が2006年に出版。ナポリの組織、カモッラの活動を暴いた告発の書がベストセラーになり、映画化もされた。
2007年、ジャンニ・アニエッリの孫、ラポ・エルカンが『L’UOMO VOGUE』(No.377)の表紙を飾り、メジャーデビューを果たす。フィレンツェの有名セレクトショップ“ルイザ・ヴィア・ローマ”を会場にし、自身がオーナーを務めるアイウエアブランド“イタリア・インディペンデント”のローンチ・イヴェントを開く。同年は、偉大なる3人のクリエーターが鬼籍に入る。ファッションデザイナーのジャンフランコ・フェレ。享年63。構築的なスタイルは、3Gのなかでも突出した感覚だった。建築家兼インダストリアルデザイナーのエットーレ・ソットサス。享年90。デザイン集団「メンフィス」の創設者として、イタリアのポップなデザインを世界に知らしめた。オペラ歌手のルチアーノ・パヴァロッティ。享年71。世界最高のテノール。『ネッスーン・ドルマ』や『オ・ソーレ・ミオ』は、力強くも透明感ある伸びやかな歌声で、いまも記憶に新しい。フィアット『500』がフルモデルチェンジしたのも2007年。これまで幾度かモデルチェンジをしたが、快適性の追求や燃費効率の改善など、多彩な新機能を導入。豊富なカラーバリエーションを展開し、イタリアだけではなく世界的な大ヒットとなる。
ナポリでゴミ処理問題が勃発した2008年。廃棄されないゴミの山が街のあちこちに。約1年にわたり、観光客の姿のない街に変貌した。
2009年、イタリア中部アブルッツォ州のラクイラで群発地震が発生。最大マグニチュード6,3。多くの家屋が倒壊し、街は壊滅的な状況となった。
海外にもマーケットを拡大しながら、2000年代を迎えた“マリネッラ”。ミラノに初支店をオープン。創業90周年の記念碑的な写真集の発刊。ナポリ本店の裏に、ゆっくりと商品が選べるショールーム的なショップを増設。ミラノの歴史ある靴店“スティヴァレリア・サヴォイア”を買収した。さらに、東京に海外初出店を果たし、格段の成長を遂げる。ゴミ処理問題でナポリの観光客が激減し、ネクタイが4~5本しか売れない日もあったが、“マリネッラ”のブランドステイタスは、確立された。



Photos by Mimmo and Francesco Jodice for E.Marinella - “Napoli e Napoli” book

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  • 矢部克已/Katsumi Yabe

    1964年東京生まれ。ファッションエディター、ファッションジャーナリスト。 流行通信社(『流行通信HOMME』編集部)、婦人画報社(『メンズクラブ』編集部)を経て、イタリアに渡る。フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノの4都市に移り住む。帰国後、ウェブマガジン『DUCA』『Espresso per te』(ソフトバンククリエイティブ)編集長歴任。星美学園短期大学で非常勤講師。雑誌『メンズプレシャス』のエグゼクティブ・ファッションエディターを務めた。ウェブサイト、トークショーでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般にわたる歴史やスタイル、トレンドに精通し、SNSを積極的に発信する。
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