マリネッラ創業１００年、そして次の１００年
ーー２０世紀イタリアの文化と社会とともにーー
第三回「1920～29年：天才クリエーターたちの誕生」

計り知れない創造性は、イマジネーションを縦横無尽に開花させる天才たちの躍動にほかならない。革命的な時の人がいなければ、イタリアはいまのように豊かで面白い国ではなかったかもしれない。1920年代はとくに、映画、文学、建築、自動車の分野において、傑出した才能があらわれた。
1920年、エンツォ・ビアージが誕生する。ジャーナリストとして活躍し、哲学や芸術、政治の奥底まで切り込んだイタリアきっての教養人だった。同年、映画監督フェデリコ・フェリーニや、喜劇俳優として名をはせたアルベルト・ソルディも生まれた。
メンズファッションの世界において、憧憬のまととなったジェンティール・ウォモがジョヴァンニ・アニエッリ。誕生は1921年。ジャンニと呼ばれ、アヴォカートというあだ名でも親しまれた正真正銘の名士である。
1922年、ピエル・パオロ・パゾリーニ生まれる。監督した映画や脚本で社会の深層に漂うタブーを問うた。同年、後の名優ヴィットリオ・ガスマンが誕生。
1923年、イタロ・カルビーノが生まれ、ファンタジックな作風で国民的作家となった。
マルチェロ・マストロヤンニは1924年に生誕。ヴィスコンティ、デ・シーカ、フェリーニの映画でその名をとどろかせ、イタリア映画の底力を世界に知らしめた“ラテンラバー”である。生涯で約170作品の映画に出演した。社会思想家アントニオ・グラムシが、日刊紙『ウニタ』を創刊したのも1924年だった。
1926年、モダニズム建築の旗手ジュゼッペ・テッラーニは、建築家グループ「グルッポ７」結成。合理主義的建築を牽引した。同年、ナポリ銀行とシチリア銀行が権利を得ていた通貨発行権を、イタリア銀行に移譲。イタリア銀行が唯一の発券銀行となる。
1928年、最新の建築やデザインを編集した雑誌『ドムス』創刊。建築家ジオ・ポンティが編集長を務めた。同年、エッセイストとして人気を博した、ルチアーノ・デ・クレシェンツォがナポリで生まれる。数々の映画音楽を芸術にまで高めた作曲家、エンニオ・モリコーネも同年、ローマで誕生。“空間概念”を提唱した芸術家、ルーチョ・フォンタナがアルゼンチンからミラノに移住したのも1928年だった。
1929年、ラテラーノ協定によってローマ問題が和解。ヴァチカン市国が樹立される。同年、エンツォ・フェッラ―リがレース仲間とともに“スクーデリア・フェッラ―リ”を創設した。
おびただしい天才が1920年代に生まれ、現代につながるクリエイティブの地盤が整う。
新しい芸術や娯楽が創造されるなか、初代当主のエウジェニオ・マリネッラは、パピヨン（蝶ネクタイ）の結び方を週２回ほど店で教えていた。紳士にふさわしい装飾品の販売とともに、服飾文化の発展を担っていく。